以前、お電話でのお問合せで成人男性の方から「先生は厳しい先生ですか?優しい先生ですか?」と突然訊かれ、
えっ?と、びっくりしたことがあります。
「何を持って厳しいとするかは、人によっても感じ方が違うと思うのですが・・・」
と応えつつお話をし、結局「もっと厳しい先生を探します」とのことでした。
この質問は改めて考えるきっかけをくれました。ただ私の考えでは、けっして
厳しさ=怒る、キツイ、傷つけるような言葉を言う ・・・ではないし
優しさ=甘やかす でもないと思っています。
思い出したのは、幼稚園の時のこと。当時、放課後にバレエや英語のレッスンのオプションがありました。バレエを習っていたお友達がいたのですが、「先生が厳しいらしい」と母が話していました。幼稚園児なのにうまくできないと「ヘタクソ!」と言われ、上手にできると「子供らしくないね!」とふくらはぎを叩かれ、どちらにしろ褒めないとのこと。スポ根漫画が流行った時代、「褒めて育てる」なんて言葉はなく、ピアノに限らずできなかったら「何クソと思ってやれ」と言われるような根性論がありました。
現代ではあらゆる所で体罰は禁止ですが、例えば作曲家の伝記映画でピアノの生徒の手を定規でピシッと叩いたり、人気コミック「のだめカンタービレ」でも小学生ののだめちゃんは先生に張り倒されたりしてケガをしていましたね。今はあり得ないでしょう。私も中学生の時、ペダルの使い方が悪いと、私の足の上から先生がガンガン踏まれました。学校のレッスン室でしたので、私は上履き、先生は土足でした。指の形が悪いと指を掴まれ、鍵盤にギュッと押し当てられ、確かにそれが痛くて電車のなかでも弾くときの指の形を変える練習をしていたものです。結果としては技術的にどういうことが理解できた部分もありますが、これが正しかったのか、他のやり方はなかったのか、考えることがあります。
「厳しい」とはどういうことなのでしょう。
有名ピアニストのKさんはレッスンの挨拶「よろしくお願いします」を言わなかったら故N先生に40分間お説教されたとテレビで言っていました。礼儀には厳しいということですね。確かに挨拶は大切です。
ほかには?宿題・課題をたくさん出すこと? 毎日必ず最低◇時間練習しなさいと指定?
曲の合格ラインが高すぎる? 確かにある程度の必要事項です。
まず生活態度から指導、あるいはまず自分に厳しくあるべきなんて、哲学的なこと?
課題ができなかったら例えば「一週間何をやっていたの!?」「そんなにやってこないなら、もう来なくていい、やめなさい」「何でできないの?」などとキツイ言葉を言うこと?
昔のお稽古事あるあるですが、実際私は言いませんし、書くだけでもうイヤだなと思いますね。
私自身はこういう言葉が必ずしも効果があるとは思えません。そもそも何故生徒が弾けないのか、は指導側が考えることだと思っています。でもこの問題はひとりひとり違うのでとても難しいです。悩まれているピアノ指導者は多いと思います。
生徒の気持ちを削がずに、その生徒にとってどこまで適切で効果的な言葉を言えるかは、指導側の課題だと思いますので、注意やお説教の言葉の選択は、こちらも日々考えていることです。
私が小学生の頃、ピアノを流行りましたが、せっかくピアノを買ってもらっても、レッスンで怒られたり否定されたりしているうちにピアノが嫌いになってしまって辞めてしまったケースはよく聞きますし、とても残念です。
大人の生徒さんで、以前の教室で全否定されてしまったという方もいます。
子供と大人のレッスンは、レベルにもよりますがだいぶ違いがあります。
特に大人になってからピアノを始める場合は指が動きにくい場合が多く、子供と同じようなレッスンは適さないですし、音楽の楽しみのブラッシュアップをお手伝いできるよう、その方に合う方法を考えています。
何を厳しいとするかにもよりますが、厳しさが必要ならば、愛がある厳しさ=優しさであればいいと思います。レッスンが厳しいとか優しいというより、その生徒に今何が必要かを考えた指導が、厳しさあるいは優しさに結果としてつながるのではないでしょうか。当たり前といえばそうですね。
私も学び続けていますが、私の現在の師匠がそのように考えてくださっているのがよくわかります。
大人になっても、ピアノに限らず何かを学び続ける喜びというのは、学生の頃よりも今のほうが感じますね。